Cubaseを使って音楽制作に没頭している最中、突然のフリーズやクラッシュで落ちるのは本当に困った問題です。
プラグインが原因なのか、それともCubase自体のバグなのか、色々試しても解決しないそのトラブルは、あなたのPCにプリインストールされている「Nahimic(ナヒミック)」というオーディオソフトウェアが原因かもしれません。
この記事では、NahimicがなぜCubaseと競合し、どんな問題を引き起こすのか、そして具体的な解決ステップについて解説していきます。
「Nahimic」とは何か
Nahimicとは、A-Volute社が開発したオーディオ拡張ソフトウェアです。
主にゲーミングPCやマルチメディア用途のPCに搭載されており、以下のような機能でより没入感のあるオーディオ体験を提供することを目的としています。
- バーチャルサラウンドサウンド (7.1chなど)
- 音量の自動調整・安定化
- マイクのノイズキャンセリング
- 低音・高音の強調
- ゲーム内の音の方向を視覚的に示す「サウンドトラッカー」機能
意図せずプリインストールされている可能性がある
Nahimicは、MSI、ASUS、Dell(Alienware)、Lenovo(Legion)といった特定のPCメーカーの製品、特にゲーミングPCやゲーミングマザーボードにプリインストールされている(最初からインストールされている)ことが多いです。
そのため、ユーザー自身が「Nahimicをインストールしよう」と思って入れたわけではなく、PCを購入したら既に入っていたというケースがほとんどです。
ユーザーからは不満の声や「ブロートウェアだ」との意見も
便利な機能がある一方で、Nahimicはその動作の永続性(アンインストールしても復活することがあるなど)や、システムリソースの消費、他のソフトウェアとの競合問題を生じることから、一部ユーザーからは「ブロートウェア(不要なおまけソフト)」や、時には「マルウェアのようだ」とまで言われてしまうこともあるようです。
特に音楽制作用途では、これらのオーディオ拡張機能が必ずしも必要でなかったり、むしろDAWの安定動作を妨げたりすることが問題視されています。
NahimicがCubaseに引き起こす「謎の不具合」事例集
Nahimicはオーディオ関連のソフトウェアですが、一見するとオーディオ処理とは直接関係なさそうな場面でCubaseに問題を引き起こす事例が、Steinberg公式フォーラムで数多く報告されています。
事例1:ビデオウィンドウを開くとフリーズ
Cubaseで映像と同期した音楽を制作する際に、ビデオウィンドウを開いたり操作したりするとCubase全体がフリーズしてしまい、強制終了するしかなくなるという事例が報告されています。
あるユーザーは、Nahimicサービスを無効にしたところ、この問題が解決したと報告しています。Nahimicのオーディオ処理や画面表示機能が、Cubaseのビデオエンジンと干渉している可能性が考えられます。
事例2:マルチモニター環境でウィンドウを動かすとクラッシュ
複数のモニターを使ってCubaseで作業する「マルチモニター環境」において、プラグインのウィンドウを別のモニターに移動したり、Cubaseのウィンドウ操作をしたりすると、突然フリーズしたり、画面表示がおかしくなったり、最悪の場合クラッシュするという報告があります。
これもNahimicを無効化・アンインストールすることで解決したケースが複数報告されており、NahimicがWindowsのディスプレイ管理システムと悪影響を及ぼしあっている可能性があります。
事例3:特定のプラグイン(特にOpenGL系)を使うとクラッシュ
特定のサードパーティ製プラグインを開いたり、操作したりするとCubaseが応答しなくなり、クラッシュするという事例も頻繁に聞かれます。
特に、グラフィカルなユーザーインターフェース(GUI)の描画にOpenGLという技術を利用しているプラグイン(例:FabFilter製品、Arturia製品、Waves製品の一部など)で問題が起きやすい傾向にあります。
クラッシュダンプを解析した結果、Nahimicのコンポーネントが関与していたことが判明し、Nahimicを無効化することで問題が解決したという報告が多数あります。
Nahimicが原因のCubaseトラブル解決ステップ
もしあなたのCubaseが、上記のような原因不明のクラッシュやフリーズに悩まされているなら、以下のステップでNahimicが悪影響を及ぼしていないか確認し、対策を講じることをおすすめします。
まずはNahimicが実行されているかを確認
タスクマネージャーで確認
Ctrl + Shift + Esc を押してタスクマネージャーを開き、「プロセス」タブに「Nahimic」や「A-Volute」といった名前のプロセスが動いていないか確認します。
サービスで確認
Windowsキー + Rで「ファイル名を指定して実行」ダイアログを開き、「services.msc」と入力してEnterキーを押します。サービスの一覧に「Nahimic service」といった名前のサービスがないか確認します。
もしNahimicが実行されていることが確認できたら、以下の対策に進んでください。
対策1:Nahimicサービスを無効化する
これが最も手軽で「効果がある」と報告されている方法です。
- Windowsキー + R を押し、「services.msc」と入力してEnterキーを押し、サービスマネージャーを開きます。
- サービスの一覧から「Nahimic service」(または類似の名前)を探します。(「N」キーを押すと見つけやすいです)
- 「Nahimic service」を右クリックし、「プロパティ」を選択します。
- 「スタートアップの種類」を「無効」に変更します。
- 「サービスの状態」が「実行中」であれば、「停止」ボタンをクリックします。
- 「適用」をクリックし、「OK」をクリックします。
- PCを再起動します。
これで、NahimicサービスがPC起動時に自動で開始されなくなり、現在実行中のサービスも停止します。多くの場合、これだけでCubaseの問題が改善されます。
※これらの操作には管理者権限が必要な場合があります。
対策2:Nahimicソフトウェアをアンインストールする
対策1の方法でサービスを無効にしても問題が解決しない場合や、Nahimicの機能を一切利用しない場合は、ソフトウェア自体をアンインストールすることを検討しましょう。
- Windowsの「スタート」メニューから「設定」(歯車アイコン)を開き、「アプリ」を選択します。
- 「アプリと機能」の一覧から「Nahimic」に関連するプログラムを探します。
- 見つけたら、それを選択して「アンインストール」をクリックし、画面の指示に従います。
- 関連するプログラムが複数ある場合があるので、全てアンインストールします。
- PCを再起動します。
注意点
Nahimicは非常にしつこく、通常のアンインストールだけでは完全に削除できない場合があります。より完全に削除したい場合は、「Driver Store Explorer」といったツールを使って関連ドライバーを削除する必要があるかもしれません。ただしこれは上級者向けの対策です。
対策3(上級者向け):NahimicのブラックリストにCubaseを追加する
一部のNahimicのバージョンでは、Nahimicの機能から除外したいアプリケーションを「ブラックリスト」に登録する機能があります。
- Nahimicのブラックリストファイル BlackApps.dat を探します。一般的なパスは C:\ProgramData\A-Volute\ ですが、環境によって異なる場合があります。
- BlackApps.dat をメモ帳などのテキストエディタで開きます。
- ファイルの末尾に、Cubaseの実行ファイル名(例: Cubase.exe や Cubase13.exe など、使用しているバージョンにファイル名を合わせる)を新しい行として追加します。
- ファイルを保存し、PCを再起動します。
※このファイルの編集には管理者権限が必要な場合があります。
対策4(Nahimic v1.4.14以降):Sound Trackerエンジンを無効にする
Nahimicのバージョン1.4.14以降においては、Nahimicのアプリケーション設定内にある「Sound Tracker Engine」という機能が特に問題を引き起こすことが知られています。
Nahimicのコントロールパネルを開いて設定項目を探し、この機能を無効にできるか試してください。
【参考】NahimicとCubaseの競合問題の技術的な背景
なぜNahimicがCubaseの安定動作を妨げてしまうのか、その考え得る技術的な要因について解説します。
NahimicOSD.dll の存在
NahimicOSD.dll というファイルが、これらの競合問題に深く関わっていると見られています。
「OSD」とは「オンスクリーンディスプレイ」の略で、Nahimicがゲーム画面上に音の方向を示すオーバーレイを表示したり、通知を出したりするための機能です。このOSD機能が、Cubaseの画面描画処理、特にビデオ再生やプラグインGUIの表示と衝突する可能性があります。
OpenGLとの致命的な非互換性
NahimicのOSD機能は、多くのプラグインがGUI描画に利用しているOpenGLと非常に相性が悪いことが指摘されています。特にマルチモニター環境では、この非互換性が顕著に現れ、フリーズやクラッシュを引き起こすようです。
両者がグラフィックリソースを奪い合ったり、描画タイミングがズレたりすることが原因と考えられています。
システム全体へのコードインジェクション
Nahimicは、その独自機能を実現するために、Cubaseを含む他の実行中のプロセスに自身のコードを「注入(インジェクション)」する手法を用いている可能性があります。
この手法は、アプリケーションの動作を監視したり、機能を拡張したりするために使われることがありますが、インジェクションされたコードがCubaseやプラグインの正常な動作を妨害し、不安定化させるリスクも伴います。
簡単に言えば、Nahimicが良かれと思って行っている画面表示の制御やオーディオ処理への介入が、繊細なリアルタイム処理を要求されるCubaseの動作とぶつかってしまう、ということです。
どのバージョンのCubaseで起こりやすい?
NahimicとCubaseの競合は、Cubase 10、11、12、13、さらには14といった幅広いバージョンで報告されています。
これは、この問題が特定のCubaseバージョンに起因するものではなく、OSの根幹的な部分(グラフィック処理やウィンドウ管理など)とNahimicとの間に、長年にわたる根本的な非互換性が存在することを示唆しています。
まとめ~安定したCubase環境のために
Nahimicオーディオサービスは、特定のユーザーにとっては便利な機能を提供するかもしれませんが、DAW環境、特にCubaseにおいては予期せぬクラッシュやフリーズの大きな原因となることがあります。
もしあなたのCubaseが原因不明のトラブルに見舞われているなら、以下の点を試してみてください。
- Nahimicの存在を確認し、動いていればまずサービスを無効化してみる。
- 改善が見られたら、Nahimicのアンインストールを検討する。
- Nahimicを残したい場合は、ブラックリスト機能やSound Trackerエンジンの無効化を試す。
- グラフィックカードのドライバーを最新の状態に保つことも、ソフトウェア競合の予防策として有効です。
- これらの対策を試しても問題が解決しない場合は、Steinbergのサポートフォーラムや、お使いのPCメーカー、またはNahimicのサポートに問題を報告することを検討しましょう。
この記事が、あなたのCubase環境を安定させ、快適な音楽制作ライフを取り戻すための一助となれば幸いです。
参考記事
Cubaseが頻繁にフリーズしたり落ちてしまう場合、メモリー不足が原因の可能性があります。正しいメモリー使用状況の見方は下の記事で解説しています。
