この記事では、Cubaseユーザーなら一度は目にしたことがある「ASIO-Guard」について取り上げます。
DAWでの音楽制作において、安定した動作と低いレイテンシー(低遅延)は永遠のテーマです。特にプロジェクトが複雑化し、多くのトラックやプラグインを使用するようになると、CPU負荷との戦いは避けられません。
この記事では、ASIO-Guardの基本的な仕組みから、メリット、進化の歴史、そして実践的な設定方法やトラブルシューティングまで、詳しく解説していきます
ASIOとCPU負荷について。そしてASIO-Guardの登場へ至る経緯
まず、ASIO-Guardを理解する上で欠かせない「ASIO」について簡単におさらいしましょう。
ASIO (Audio Stream Input/Output) とは、主にWindows環境で、DAWソフトとオーディオインターフェース間の音声信号のやり取りを超低遅延で行うためのドライバー規格のことです。
OS標準のオーディオ機能をバイパスすることによって、録音や演奏時の「音の遅れ(レイテンシー)」を極限まで減らすことが可能で、リアルタイム性の高い音楽制作を実現します。
しかし現代の音楽制作は、高品位なサンプリング音源、CPU負荷の高いエフェクトプラグイン、膨大なトラック数など、とにかくパソコンへの要求が高くなっており、常に出来るだけ多くのCPUパワーが必要な状況だといえます。
こうしたCPU負荷の増大によってオーディオ処理が追い付かなくなる結果、音飛び(ドロップアウト)、プチノイズ(クリック音、ポップノイズ)といった、音楽制作において最も避けたい問題を引き起こします。
このような課題に対処すべく、Steinberg社がCubase 7で導入したのが「ASIO-Guard」という画期的な技術です。その主な目的は、システム全体の安定性を向上させ、オーディオ処理のピークや予期せぬCPU負荷の変動に対して、より強靭なシステムを構築することにありました。
ASIO-Guardとは?~基本的な仕組みについて
では、ASIO-Guardは具体的にどのようにしてシステムの安定性を高めているのでしょうか? その秘密は、Cubaseのハイブリッドオーディオエンジンによる巧みな処理の分担にあります。
処理を2つのプロセスに分ける~「リアルタイム処理パス」と「ASIO-Guard処理パス」
ASIO-Guardでは、Cubase内のオーディオ処理を大きく2つの経路(パス)に分けて処理しています。
リアルタイム処理パス
- 今まさに録音しているトラックの音声信号
- ソフトウェア音源を鍵盤でリアルタイムに演奏している音
入力をモニタリングしている音など、「今すぐ」処理しないと遅れが致命的になるタスクを担当するのが「リアルタイム処理パス」です。
この経路は、従来通りオーディオインターフェースで設定した小さなバッファサイズで処理され、低遅延を維持します。
ASIO-Guard処理パス
- 既に録音済みのオーディオトラックの再生
- 打ち込み済みのMIDIトラックの再生
リアルタイム入力がないエフェクト処理やプラグイン音源の発音処理など、「事前に処理できるタスク」を担当します。
こちらの経路には、ASIO-Guard専用の「大きなバッファサイズ」が割り当てられます。
大きなバッファで余裕を生む「事前処理(プリレンダリング)」
ASIO-Guard処理パスのポイントは、この「大きなバッファ」と「事前処理(先読みバッファリング)」にあります。
例えば、あるトラックを再生する際、ASIO-Guardはそのトラックの音声データを、実際に発音されるよりも少し「先読み」して、大きなバッファにどんどん処理結果を溜め込んでいきます。CPUに余裕がある時に、あらかじめ計算を済ませておくイメージです。
これにより、もし瞬間的にCPU負荷が跳ね上がるような事態(他の重い処理が割り込むなど)が発生しても、ASIO-Guardのバッファに蓄えられた「処理済みの音」があるため、音切れを起こすことなく再生を継続できるのです。
これが、ASIO-Guardがシステムの安定性を高める基本的なメカニズムです。
ASIO-Guardのレベル設定(後述します)は、この「大きなバッファ」のサイズ(=事前処理の度合い)を調整するもの、と考えると分かりやすいでしょう。
ASIO-Guardのメリット~制作環境が快適になる理由
ASIO-Guardの設定を有効にすることで、私たち音楽制作者は具体的にどのような恩恵を受けられるのでしょうか?
安定性の飛躍的な向上。音飛びやノイズの劇的な減少
これが最大のメリットです。CPU負荷のピークを吸収してくれるため、これまで頻繁に発生していた音飛びやプチノイズが大幅に減り、ストレスなく制作に集中できます。
より多くのトラックやプラグインを扱えるように
システム全体の処理効率が上がるため、CPU負荷の高いプラグインをたくさん使ったり、トラック数が多い大規模なプロジェクトでも、パフォーマンスの限界を引き上げてくれます。
音が良いけれど非常に重いプラグインシンセやエフェクターなどが、ASIO-Guardのおかげでより多く使えるようになる可能性があります。
録音・モニタリング時の実質的な低遅延化の可能性
「ASIO-Guardは再生トラックにバッファを使うなら、逆に遅延が増えるのでは?」と思われるかもしれません。確かにASIO-Guard処理パス自体はレイテンシーを持ちますが、重要なのは「リアルタイム処理パス」への影響です。
ASIO-Guardが非リアルタイム処理の負荷を肩代わりしてくれることで、CPUのリアルタイム処理能力に余裕が生まれます。
その結果、オーディオインターフェースのバッファサイズを従来よりも小さく設定してもシステムが安定しやすくなり、結果的に録音やモニタリング時のレイテンシーを詰めることが可能になる、という間接的な効果が期待できるのです。
バッファサイズを変更する手間の削減によるワークフロー改善
従来は、録音時はオーディオインターフェースのバッファサイズを小さく、ミックス時は大きくするといった具合に、作業フェーズごとにバッファサイズを頻繁に変更する必要がありました。
ASIO-Guardを使えば、リアルタイム入力が必要なトラックは低遅延を保ちつつ、他の再生トラックは安定性を重視した状態に保てるため、バッファサイズを頻繁に変える手間が減り、より音楽制作そのものに集中できるようになります。
ASIO-Guardの進化の歴史~Cubaseと共に歩んできた道のり
ASIO-Guardは、登場初期から完璧だったわけではありません。Cubaseのバージョンアップとともに多くの改善が重ねられてきました。その進化の歴史を少し振り返ってみます。
Cubase 7:ASIO-Guardの夜明けと初期の苦闘
2012年末にリリースされたCubase 7で、ASIO-Guardは初めて搭載されました。そのコンセプトは画期的でしたが、初期の実装ではPC環境によっては不安定になったり、CPUスパイク(突発的な高負荷状態)が発生したりといった報告もあり、ユーザーの評価は賛否両論でした。
特に、当初はオーディオチャンネルのみが対象で、VSTインストゥルメントへの恩恵は限定的でした。まさにSteinbergとユーザー共に「産みの苦しみ」を味わっていた時期だったと言えるでしょう。
Cubase 8:ASIO-Guard 2による飛躍的な進化
2014年末リリースのCubase 8で、ASIO-Guardは「ASIO-Guard 2」へとメジャーアップデートを果たし、これが大きな転換点となりました。
マルチティンバーのVSTインストゥルメント(KontaktやPlayなど、1つのプラグイン内で複数の音源を扱うもの)への対応が強化され、CPU負荷の高いこれらのプラグイン音源を多用する現代の制作スタイルに大きく貢献しました。
多くのユーザーがパフォーマンスの大幅な向上を実感し、「ASIO-Guardは使える機能だ」という評価が定着し始めたのがこの頃です。
とはいえ正直、まだまだ不安定な挙動が見られたのは事実であり、一部ユーザーの間では「安定した制作環境のためにはASIO-Guardをオフにするのが望ましい」という意見も根強くありました。
その後のバージョン:継続的な改良と細やかな対応
Cubase 8.5ではさらなるパフォーマンス向上が見られ、以降のバージョン(Cubase 12、13など)でもASIO-Guardはコア技術として磨き続けられています。
特筆すべきは、プラグインごとにASIO-Guardの有効/無効を切り替えられる機能が追加されたことです。これにより、特定のプラグインとの相性問題が発生した場合にも、柔軟に対応できるようになりました。
直近ではCubase 12でオーディオエンジンの抜本的改良がおこなわれたと言われており(オートメーション機能の精度がサンプル単位に向上した)、このタイミングでASIO-Guardも性能が向上したと思われます。
ソフトウェア技術に完璧はなく、新しい機能の追加やOSの変化に伴い、時折予期せぬ問題が発生することもあります。しかしSteinbergがユーザーの声に耳を傾け、継続的にASIO-Guardを改良してきたことは間違いありません。
ASIO-Guardを使いこなすための実践テクニックと注意点
さて、ここからはASIO-Guardをより効果的に活用するための具体的な設定方法や、遭遇しやすい問題とその対処法について掘り下げていきましょう。
ASIO-Guardレベルとバッファサイズ
Cubaseの「スタジオ設定」メニュー内にある「オーディオシステム」の項目で、ASIO-Guardに関する設定が行えます。
ASIO-Guardレベル(低・通常・高)
これが最も重要な設定項目です。各レベルの特徴は以下の通りです。
レベル | バッファサイズ (相対的) | 主な利用目的 | パラメーター調整時の遅延 |
---|---|---|---|
低 | 小さい | レイテンシーを極力抑えたい場合や、リアルタイム性が重要なプロジェクト | 少ない |
通常 | 中くらい | バランスの取れたパフォーマンスを求める一般的なケース | 中くらい |
高 | 大きい | 安定性を最優先する場合や、CPU負荷の非常に高い大規模プロジェクト | 多い |
一般的には「通常」から試し、CPU負荷が高いプロジェクトで音切れが気になるようであれば「高」に設定するのが良いでしょう。
「高」にすると安定性や利用可能なプラグインの数は増しますが、再生中のトラックのボリュームフェーダーを操作した際などに、わずかな反応の遅れ(ASIO-Guardによる事前処理のための遅延)が生じるようになります。
私の場合は、十分な安定性と利用可能なプラグインを増やす目的で常に「高」を使っています。この設定だと、特にオーケストラ音源を多用するようなプロジェクトでプチノイズや音切れがほぼ見られなくなり、ASIO-Guardレベル「高」の恩恵を感じやすいです。
制作中、リアルタイムでシビアなパラメーター調整をする場面は無いこともあり、この設定で困ったという経験はこれまでにありません。
オーディオインターフェースのバッファサイズとの関係
ASIO-Guardは、オーディオインターフェース側で設定するバッファサイズ(これがリアルタイム処理パスのレイテンシーを決定します)とは別に、独自のバッファを持ちます。
ASIO-Guardを有効にすることで、オーディオインターフェースのバッファサイズを従来より小さく設定しても安定動作が期待できる、という点を覚えておきましょう。
例えば、以前は256サンプルでやっと安定していたプロジェクトが、ASIO-Guardを「通常」や「高」に設定することで128サンプルでも問題なく動作する、といったケースがあり得ます。これにより、録音時のモニタリング遅延を減らすことが可能です。
初期状態だと出力バスにASIO-Guardが適用されない
あまり知られていないですが、Cubaseで新規ファイルを作成した場合、ミックスコンソールの出力バスにはASIO-Guardが適用されないという問題があります。
そのため、出力バスに何らかのプラグインエフェクトが挿入されている場合、それらエフェクトはCPU負荷の掛かるリアルタイム処理が行われてしまいます。
この「出力バスのASIO-Guard」の問題は、Steinbergが公式に認めているCubaseの問題(特殊な仕様)のひとつですが、その対策手順も公式にアナウンスされていますので、下記の記事を参考に対策を行って下さい。

よくある問題と対処法(トラブルシューティング)
ASIO-Guardは非常に強力な機能ですが、万能ではありません。ここでは、Steinberg公式フォーラムを中心にユーザーから報告されることの多い問題と、その解決策のヒントをいくつかご紹介します。
問題1:特定のプラグインを使うと動作が不安定になったりノイズが出る
原因: 一部のプラグイン(特に古いものや、特殊な処理を行うもの)は、ASIO-Guardの事前処理と相性が悪い場合があります。有名な例では、過去にFabFilter Pro Q2(現在は改善されている可能性あり)や、Vienna Ensemble Pro (VE Pro)との連携で工夫が必要なケースが報告されていました。
対策: Cubaseの「プラグインマネージャー」で、問題のありそうなプラグインに対して個別にASIO-Guardを無効に設定してみてください。これにより、そのプラグインは常にリアルタイム処理パスで動作するようになります。
※特にVienna Ensemble Proは、開発したVSL社側から公式に「ASIO-Guardを個別にオフ」にするようにアナウンスされています。これはVE Pro自体が、ASIO-Guardと同様の先読みバッファリング処理をおこなうプラグインであるため、同じ機能がバッティングして問題を引き起こすためです。
問題2:PC全体のCPU使用率は低いのに、Cubaseのパフォーマンスメーター(特にASIO-Guardメーター)が振り切れる
原因:
- CubaseのメーターはOSのCPUメーターとは別物である:
Cubaseのパフォーマンスメーター(平均オーディオ処理負荷、リアルタイムピーク、ASIO-Guard)は、単なるCPU使用率だけでなく、オーディオ処理のリアルタイム性やバッファの状況など、より専門的な指標を示しており、OSのCPUメーターとは別物です。 - シングルコアのボトルネック:
最近のアプリの内部処理はマルチコア対応が主流ですが、DAWの処理の中には、単一のCPUコアに負荷が集中しやすい処理も存在します。例えば、非常に多くのプラグインをインサートした1つのチャンネルストリップなどが該当します。OS全体のCPU使用率で見ると余裕があっても、特定の1コアが限界に達すると、音切れやプチノイズ、ASIO-Guardの過負荷として現れることがあります。
対策:
- まずはASIO-Guardレベルを上げてみる。
- 負荷の高いチャンネルの処理を複数のトラックに分散したり、フリーズ機能を活用するなどを検討。
- LatencyMon(後述)などのツールで、システム全体の遅延状況を確認して対策する。
問題3:ASIO-Guardレベルを「高」にすると、オートメーションや再生中のパラメーター調整に遅延を感じる
原因: これはASIO-Guardの仕様です。「高」レベルではより多くのオーディオデータを事前処理するため、リアルタイムのパラメーター変更が実際に音に反映されるまでにわずかな遅延が生じます。
対策: ミックスダウン前の細かなオートメーション書き込みや、リアルタイムでの積極的なパラメーター操作を行う際は、一時的にASIO-Guardレベルを「通常」や「低」に下げることを検討しましょう。もしくは、このわずかな遅延に慣れてしまうというのも一つの手です。
問題4:Cubaseのバージョンアップ後や、特定のプロジェクトで予期せぬ動作をする
原因: ソフトウェアのバグである可能性も否定できません。過去には、特定のバージョンでASIO-Guardが内部的に無効になってしまう不具合や、パフォーマンスが以前のバージョンより低下するといった報告も公式フォーラムで見られました。
対策:
- まずはCubaseを最新のマイナーアップデートまで適用してみる。
- Steinbergの公式フォーラムやユーザーコミュニティで同様の事例が報告されていないか確認する。
- 一時的な対処として、問題が発生するプロジェクトでのみASIO-Guardの設定を変更したり、問題のあるプラグインを特定して無効化するなどを試す。
- 場合によっては、プロジェクト設定や環境設定の初期化が有効なこともあります(事前バックアップを推奨)。
問題5:多チャンネルのマルチ録音でノイズが発生したり不安定になる
原因: ASIO-GuardはリアルタイムパスとASIO-Guardパスとに分けて処理を行っているわけですが、数多くのチャンネルをマルチ録音する場合、ASIO-Guardの処理が足かせとなってしまうケースがあります。
対策: 多チャンネルのマルチ録音を行う場合、必要なのはリアルタイムパスのためのCPU処理能力なので、思い切ってASIO-Guardの設定をオフにして、それで動作が安定するかを確認してみます。コミュニティでもASIO-Guardをオフにすることで改善したという報告が見られます。
MacとPCでの挙動の違いについて
当時の公式ヘルプにも記載されているように、ASIO-Guardは元々、Mac OS X(現macOS)環境での恩恵が大きいとされていました。これはOSのオーディオアーキテクチャの違い(CoreAudio vs ASIOドライバー)に起因する部分もあります。
しかし、現在ではWindows環境でも適切にシステムが最適化されていれば、ASIO-Guardの恩恵を十分に受けることができます。むしろプラットフォームの違いによる差よりも、個々のPC構成やドライバーの品質、OS設定の最適化度合いがパフォーマンスに大きく影響すると言えますので、MacとWindowsの違いを気にする必要は無いと考えられます。
システム全体の最適化でASIO-Guardを活かす
ASIO-Guardの性能を最大限に引き出すためには、Cubase内の設定だけでなく、PCシステム全体の最適化も非常に重要です。
最新かつ適切なオーディオインターフェースドライバー
基本中の基本ですが、オーディオインターフェースのドライバーは必ずメーカー公式サイトから最新版をダウンロードし、正しくインストールしましょう。
念のため、スタジオ設定でオーディオインターフェースの専用ASIOドライバーが選択されているかを確認しておきます。Generic ASIOドライバーやCubaseのビルトインASIOドライバーが選択されている場合、インターフェースのポテンシャルを発揮できない可能性があります。
OSの電源設定
Windowsの場合、「高パフォーマンス」設定にするか、Steinbergが提供している「Steinberg Audio Power Scheme」を有効にすると、CPUの処理能力をオーディオ処理に優先的に割り当てることができ、ドロップアウトの防止に繋がります。
これはCPUの省電力機能を抑制するためのもので、CPUのクロック周波数の増減に伴うリアルタイム処理能力の低下を防ぐ効果があります。省電力機能が働かなくなる結果、消費電力とCPUの発熱が増加する点に注意が必要です。
バックグラウンドプロセスの整理
不要な常駐ソフトやバックグラウンドで動作しているアプリケーションは、CPUリソースを消費し、オーディオ処理の邪魔をすることがあります。音楽制作時はこれらを可能な限り終了させるか機能を一時停止させておきましょう。
GoogleドライブやOneDriveなどのクラウドバックアップツールや、SNSアプリなど、自分では起動させていないつもりでもバックグラウンドで動作し続けているアプリは多いですので、一通り設定を確認することをおすすめします。
他にも、PCの動作を快適にすると謳う一部のユーティリティソフトも、オーディオ処理の邪魔をしている可能性がありますので終了させておきましょう。
セキュリティソフトの設定
現在の音楽制作PCにおいては、DAWとプラグインのオーソライズ手続きやライセンス管理のためにインターネットへの接続がほぼ必須になっています。そのためセキュリティソフトの導入も当然必要です。
しかし、DAWのオーディオファイル処理とセキュリティソフトの処理は相性が悪く、大抵の場合はCubaseのパフォーマンスを下げてしまいます。そこで大切になるのが、Cubaseとその関連ファイルをセキュリティソフトの処理対象から除外することです。
下記の記事では、この「セキュリティソフトの除外設定」について、Windows標準のセキュリティソフトを取り上げて解説していますので参考にして下さい。

DPCレイテンシーのチェック(Windows)
「LatencyMon」のようなツールを使って、システム内のドライバーが原因でDPCレイテンシー(遅延の原因となる割り込み処理の遅れ)が高くなっていないか確認しましょう。特定のドライバー(例えば古いネットワークカードのドライバーなど)が高いレイテンシーを引き起こしている場合、それを更新または無効化することで劇的に改善することがあります。
これは少々高度な対策方法ですが、原因不明のノイズや音切れに悩まされている場合には試す価値があります。
下記の記事では、DPCレイテンシー対策について、私の実体験に基づきながら詳しく解説しています。

まとめ
今回はCubaseの重要機能であるASIO-Guardについて、その仕組みからメリット、歴史、具体的な設定、トラブルシューティングまで掘り下げて解説してきました。
ASIO-Guardは、
- システムの安定性を劇的に向上させ、音飛びやノイズを減らす
- より多くのトラックやプラグインの使用を可能にする
- 間接的に録音・モニタリング時の低遅延化に貢献する
など、現代の複雑な音楽制作において欠かせない技術です。
しかし、その一方で、
- 再生トラックのパラメーター調整の際にわずかな遅延が生じる可能性がある
- すべてのプラグインや外部ハードウェアと完璧な互換性があるわけではない
- Cubaseのバージョンや環境によっては一時的な問題が発生する可能性がある
上記のような側面も理解しておく必要があります。これは「リアルタイム性」と「処理の余裕(安定性)」というある種のトレードオフを、ASIO-Guardという仕組みの中でどうバランスさせるか、という問題とも言えます。
「ASIO-Guardは魔法の杖ではない」ということを理解しておくのが大切です。どんなに優れた技術でも、PCの物理的な限界を超えてパフォーマンスを引き出すことはできません。あくまでも、限られたリソースを効率的に使い、安定性を高めるための「アシスト機能」と捉えるのが良いでしょう。
ASIO-Guardの仕組みを正しく理解し、そのメリットと限界を知った上で、あなたの環境に合わせて賢く設定・活用することで、Cubaseでの音楽制作は格段にスムーズでクリエイティブなものになるはずです。
この記事で紹介した内容はあくまで一般的な指針であり、最終的な「正解」はあなたの環境の中にあります。色々試してみて、最も快適に動作するポイントを見つけてみてください。
この記事が、皆さんの制作環境向上の一助となれば幸いです。