レビュー『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』久保田晃弘 監修

ブックレビュー
ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック―拡散する「音楽」、解体する「人間」
大村書店
久保田 晃弘 (著), 椹木 野衣 (著), 佐々木 敦 (著)

(初出2002年4月9日)

コンピュータ・テクノロジーと音楽表現の関係に関心のある人向けの本です。具体的な技術や方法論の解説というよりも、各方面の実践者や評論家による考察や批評がメインとなっており、このテーマについて俯瞰できる読み物としての傾向が強いものになっています。

ちなみに、技術的な専門内容を扱った本としては、『コンピュータ音楽―歴史・テクノロジー・アート 』があります。こちらはコンピュータ音楽の基礎理論からプログラミングの実際までを網羅しており、こちらもとても充実した内容になっています。

私の作曲環境はPCを中心にしたものです。Windows上でシーケンス・ソフトを走らせ、ソフト・シンセや音源を鳴らし、それを波形取り込みしつつ全体をつくって行きます。子供の頃から、私の音楽とコンピュータ・テクノロジーとは切っても切れない関係にあります。その根底には私自身、楽器演奏が苦手だったということと、作品の演奏のために複数の人手が必要だったことがあります。

当初は、音楽における技術的障壁を取り除く力としてコンピュータと付き合ってきました。以来、現在ではこの環境だからこそ可能な表現と、その表現と自分の音楽性との折り合いを付けたりその先の発展を考えることに興味があります。

自分の成したい作品のためにテクノロジーを活用するというスタンスだけではなく、テクノロジーによって自身の音楽的感覚を拡張していける可能性があることに気付き、それを受け入れ実践していくというスタンスもあり、そこに創作者としての面白みがあるように思われるのです。

と共に、日々多くの時間をこうしたテクノロジーと共に過ごしていると、それらテクノロジーの自分の中における客観的位置付けや、初めて触れた当時の意味といったものが見え難くなります。そんな中、本書は過去を振り返りつつ未来を想うということを試みさせてくれるのです。

いわゆるDTMと呼ばれる音楽制作を昔からされている方にとっては、本書にニヤリとさせられることが色々とあるのではないかと思います。「アレがこんな風に発展していたのか」とうなったり、80年代アーティストのインタビューを思い出して「彼の言っていた通りになったなあ」と思ったりするかもしれません。

著者について

久保田晃弘(くぼた あきひろ)

数値流体力学、設計科学(人工物工学)に関する研究を経て、現在はアルゴリズム、インターフェイス、音響の3つをテーマに、デジタル表現に関する思索と制作を行う。多摩美術大学情報デザイン学科「数と知覚のインターフェイス」研究室助教授。(本書より引用)

イオス・スモルダース

1960年オランダ生まれ。実験音楽グループ・THU20の元メンバーであり、現在はソロで活動中。メディア・コンサルタント、ライターも務める。(本書より引用)

椹木野衣(さわらぎ のい)

1962年生まれ。美術評論家。展覧会キュレーションに「日本ゼロ年」(水戸芸術館)他がある。現在、多摩美術大学助教授。(本書より引用)

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プロフィール
Masaharu      

ジャズとクラシックをベースに、実験的なクロスオーバー音楽を作曲。舞台音楽やゲーム音楽の制作経験を活かし、物語性のある音楽を追求。