CubaseをはじめとしたDAWで音楽制作をする人にとって、WAVES社のプラグインは欠かせないツールの一つでしょう。
しかし、ある日突然、それまで使えていたはずのWAVESプラグインがDAW上で反応しなくなる、あるいは完全に消えてしまうという「認識不良」の問題に直面することがあります。
この記事では、この不可解なトラブルへの対応について、基本的な確認事項から応用的な解決方法まで、詳しく解説していきます。
問題の症状を正確に把握する
まずは、どのような症状が発生しているかを正確に把握することが、問題解決の第一歩となります。
プラグインが反応しない(GUIが表示されない)
DAWのインサートスロットにはWAVESプラグイン名が表示されているものの、それをクリックしてもGUI(グラフィカルユーザーインターフェース)が一切表示されず、プラグインがロードされない。
プロジェクトからの消失している
WAVESプラグインを使用していたプロジェクトファイルを開くと、該当のプラグインがインサートスロットから完全に消え去っている。
DAWによってブロックリストに登録されてしまう(ブラックリスト化)
CubaseやStudio OneなどのDAWは、起動時のプラグインスキャンで不安定な挙動やクラッシュを引き起こしたプラグインを、システムの安定性保持のために自動的にブロックリスト(ブラックリスト)に登録する機能を持っています。
何らかの原因によって、DAWがWAVESプラグインをブロックしてしまうと、プラグインへのアクセスが完全に遮断されることになります。
この問題に対してCubaseの場合だと、手動で動作を許可(再アクティベート)する機能もありますが、トラブルの内容によってはDAWを起動するたびに再度ブロックされるという状態になるケースがあります。
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これらの症状は、特定のプロジェクトファイルに依存せず、DAW環境全体(すべてのプロジェクトファイル)で発生するのが特徴です。
基本的なトラブルシューティングの手順
いきなりPCシステムの奥深くに手を加えるのではなく、まずは影響の少ない、シンプルで基本的な手順から段階的に進めていきましょう。
ステップ1:DAW側の設定と再スキャンの確認
WAVESプラグインは、他の一般的なプラグインと異なり、「WaveShell」という単一のコンポーネントファイルを介してDAWに認識されるという特殊な構造を持ちます。そこでまず、このWaveShellをDAWが正しく認識しているかを確認します。
※正確には、VST3だと「WaveShell1-VST3 16.0_x64.vst3」、VST2だと「WaveShell1-VST 14.12_x64.dll」といったファイル名になっています。
プラグインパスの確認
使用しているDAWが、WaveShellファイルを正しくスキャン対象として指定しているかを確認してください。
通常は「C:\Program Files\Common Files\VST3」が標準で設定されていて、そのフォルダ内のWaveShellファイルを読み込むようになっているはずです。
VST2を使用している場合は、「C¥ProgramFiles¥VSTPlugIns」や「C¥ProgramFiles¥Steinberg¥VSTPlugins」、「C:\Program Files (x86)\VstPlugins」などの一般的なVSTフォルダにファイルがあるので、それらが指定されているかを確認して下さい。
ブロックリストの解除
DAWの「プラグインマネージャー」などを開き、WAVESプラグインがブロックリストに登録されていないかを確認します。もし登録されていた場合は、手動でリストから解除し、強制的に再スキャンをかけてみてください。
ステップ2:WAVES Centralの修復機能の利用

WAVESプラグインの管理ツールである「Waves Central」には、問題解決のための修復機能が内蔵されています。
- Waves Centralを起動し、「Settings」メニューへ進みます。
- 「Clean up」、「Version Organizer」、「Fix Permissions」といったユーティリティをひとつずつ実行します。
- ここまでの段階で、DAWで問題が解決しているかを確認します。
- もし解決していない場合は、最後に「Repair」を実行し、インストール済みプラグインファイルの整合性チェックと修復を試みます。
Windowsの基盤コンポーネントの修復
上記のような基本的な対処法を試しても症状が改善しない場合、原因はWAVESソフトウェアが依存するWindowsの基盤コンポーネントにある可能性が考えられます。
CubaseなどのDAWは、プラグインを読み込む(初期化する)際に、プラグインが使用する「ランタイムファイル」と呼ばれるシステムコンポーネントにアクセスします。WAVESプラグインのような多くのアプリケーションは、そのコア機能を「Microsoft Visual C++ 再頒布可能パッケージ」といったWindowsの基本的なコンポーネントに依存しています。
もし、これらのランタイムファイルが破損したり、何らかの不整合を起こしたりしていると、プラグインの初期化プロセスがクラッシュしてしまいます。
そしてDAWはこの異常を検知し、「このプラグインは不安定である」と判断し、二度と読み込まないようにするためにブロックリストに登録してしまう──と考えられます。
解決手順:Microsoft Visual C++ 再頒布可能パッケージの修復
この段階のトラブルにおいて、最も確実で、多くの事例で有効性が確認されている解決策は、この破損したシステムコンポーネントを修復することです(この方法は、WAVESの公式サポートからもアナウンスされているものです)。
- Windowsの「設定」を開き、「アプリ」を選択します。
- インストールされているプログラムの一覧から、「Microsoft Visual C++ 2012 Redistributable」を探し、クリックして「変更」を選択します。
- 表示されたダイアログで「修復(Repair)」をクリックして実行します。
- 「2012」から始め、リストに表示されているそれ以降の年号のバージョン(例: 2013、2015-2022など)すべてに対して、順番に修復作業を繰り返してください。
【重要】エラーが出ても問題なし
例えば、「Microsoft Visual C++ 2015-2022 Redistributable」などの修復時に「セットアップに失敗しました」といったインストールエラーが表示されることがありますが、これは既知の挙動であり問題ありません。エラーダイアログはそのまま閉じて、次のバージョンの修復作業を続行してください。
該当する全てのバージョンの修復が完了したら、PCを再起動する
この手順を実行後、PCを再起動し、DAWを起動してみましょう。WAVESプラグインが正常にスキャンされ、再び使用可能な状態に復旧していれば完了です。
この方法はWAVESの公式サポートが推奨するものの一つであり、各種フォーラムで実際に解決に至った報告が多く見られ、その有効性は実証されています。
WAVESプラグインの再インストール(クリーンインストール)は最後の手段
それでも問題が解決しない場合は、いよいよ再インストール(クリーンインストール)という手段を選ぶ必要が出てきます。
WAVESプラグインの再インストールは、文字通りあらゆる関連データが初期化されますので、各種セッティングなどをバックアップし、万全の対策をとってから行ってください。
Waves Centralの「Settings」メニューに、アンインストールを実行する項目がありますので、ここからバージョン単位でアンインストールが出来ます。
しかし単なる再インストールだと改善されない可能性があり、その場合はユーザーデータ(\appdata)やプログラムデータ(\programdata)も削除する「クリーンインストール」を試みる必要があるかもしれません。
DAWではなくWindowsに問題があるケースに注意
2025年現在では、公式の管理アプリ「Waves Central」に各種の修復機能が備わっているので、まずは焦らずそれらの機能を試してみることです。
WAVESプラグインの認識不良という問題は、表面上はプラグインやDAW固有の不具合に見えます。しかしその根本原因のひとつには、Windowsの基盤を支えるシステムコンポーネント(ランタイムファイル)の不整合にあるケースもあるのが厄介なところです。
その場合は、所定の「Microsoft Visual C++ 再頒布可能パッケージ」の修復を行うことで、多くの場合は解決します。
今回の内容が、あなたのトラブル解決のお役に立てば幸いです。
