管弦楽法が学べる初心者向け良サイト

エッセイ

ソフトウェア音源で本格的なオーケストラ・サウンドを使いたい、でも具体的な方法が分からない、勉強したい。──そんな初心者に役立つサイトを二つご紹介します。

カンタン・オーケストレーション

一つ目は「カンタン・オーケストレーション」というサイトです。「最低限の勉強で、オーケストラっぽいオーケストレーションを」というスローガンのもと、各楽器の特徴から実際のオーケストレーションまで、参考音源を豊富に用いながら平易に解説されています。

カンタン・オーケストレーション - livedoor Blog(ブログ)

作者自身、「自分が仕事をしていく上で『こういうことを最初に知りたかった』ということを中心に書いた」と述べられているように、最初の一歩を踏み出すための道案内として要点がシンプルにまとめられているのが素晴らしいです。

初心者向けサイトは雑多なものになってしまうか、ただ易しいだけでポイントが押さえられていない、という辺りに陥ってしまいがちですが、このサイトはそんなところが見られません。

OTO×NOMA オーケストレーションカリキュラム

二つ目は、音楽学習ポータルサイト「OTO×NOMA(オトノマ)」のオーケストレーションカリキュラムです。

オーケストレーションカリキュラム – OTO×NOMA
クラシックはもちろん、劇伴、ゲーム音楽には欠かすことのできないオーケストラ。本カリキュラムでは、そんなオーケストラを自在に操るアレンジ技術(=オーケストレーション)をわかりやすく解説。オーケス...

動画セミナー以外の記事は無料で読むことが出来ます。

オーケストラを構成する各楽器の基礎知識に始まり、本格的なオーケストラサウンドを実現するためのアレンジテクニック、さらには、リアルな打ち込みを実現するモックアップテクニックまで、オーケストレーションに必要な一通りの知識が網羅されています。

特徴は、オーケストレーションの実践テクニックについて、実際の手順に沿って詳しく解説されている点です。オーケストレーションの際に大切な二つの視点のことや、楽器同士の相性、各楽器群の音量バランスなど、押さえておくべき要素について丁寧に解説されています。

リムスキー=コルサコフ著『管弦楽法原理』について

過去には、Principles of Orchestration On-lineという良サイトがあったのですが、残念ながら現在は運営を停止しています。このサイトは、リムスキー=コルサコフ著『管弦楽法原理』の内容をガーリタン・パーソナル・オーケストラ(GPO)というソフトウェア音源を使って演奏・解説したものでした。

しかし有難いことに現在、『管弦楽法原理』は日本語訳が公開されており、下記のサイトで全文を読むことが出来ます。

管弦楽法の基本 目次 | a capriccio
前書き前書き①前書き②前書き③前書き④第一章  オーケストラにおける楽器群について A. 弦楽器B1. 管楽器:木管楽器  B1. 管楽器:木管楽器(続き)B2. 管楽器:金管楽器C. 音を伸...

Amazonで書籍版も入手可能です。なお第2巻『譜例集』は訳出されていませんが、上記サイトから原著の第2巻をダウンロード可能です。

管弦楽法の基本
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Nikolai Rimsky-Korsakov (著)

コメント

ものごとの修練において必ず言及されるのが「守破離」ですが、管弦楽法においてもそれは強く該当すると言えます。歌舞伎の世界では、最初から我流で行こうとしたり曖昧な学びに甘んじて行ったりしたものは、“型破り”ではなく“形無し”である──そんな風に言われています。

一見すると遠回りでも、まずはオーソドックスな書法を用いて作品をつくってみる経験が、その先のステップアップの土台として大きく生きてくるはずであり、上記ふたつのサイトはその助けになると思います。

オーケストレーションの一つの到達点として常に名前の挙がるラヴェルですが、その管弦楽法をいきなりモデルとして取り入れようとしても、「それはあの独特の和声感とフレージングという独自の作曲スタイルと不可分なものなのだ」という事実を突き付けられることになるでしょう。

管弦楽法は結局のところ、個々人それぞれの作曲スタイルと密接に関わってくるものなので、ある段階以上の習熟レベルにおいては、自分の音楽を練り上げ表現する上で不可分な要素として磨いていく、そんな意識が大切になってくると思います。

オーケストレーションの対象となるのは最終的には自らの「これから表現しようとしている内的音楽」である、とも言えるかもしれません。

ともあれ、ここでご紹介したサイトを通じて一歩を踏み出した後は、スコア(打ち込み)と実際の演奏・音とをつなぐイメージ力を豊かにし、鍛えていくことに尽きると思います。注意深く多くの作品を聴き、自分の手でトライ&フィードバックを繰り返していきましょう。

参考記事

オーケストレーションを学ぶのに役立つ管弦楽法の書籍について、以下の記事で解説していますので、参考にしてください。

レビュー『管弦楽法』ウォルター・ピストン著
(初出2002年4月9日)現在出版されている管弦楽法の書籍の中で、入手のしやすさ、内容の充実度、価格面、プラスアルファを考慮した際、まず安心してお勧めできるのが本書です。オーケストラの各楽器の...
レビュー『完本・管絃楽法』伊福部昭 著
(初出2009年1月4日)出版以来、管弦楽法の最高峰としての地位を不動のものとしてきた名著であり、「管弦楽作品を書くためのバイブル」と呼ぶべき本です。自らが管弦楽法の名人でもある伊福部昭氏によ...
レビュー『管弦楽技法』ゴードン・ヤコブ著
(初出2009年1月23日)わずか120ページほどの本書の中に、管弦楽法のエッセンスが収められているのは驚くべきことです。著者ゴードン・ヤコブ(ジェイコブ)氏の長年の経験から生まれた警句の数々...
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プロフィール
Masaharu      

ジャズとクラシックをベースに、実験的なクロスオーバー音楽を作曲。舞台音楽やゲーム音楽の制作経験を活かし、物語性のある音楽を追求。